研究者として、
輝きたい
女性たちの為に。
ダイバーシティ研究環境実現
イニシアティブ(牽引型)
米国や英国への留学経験、海外の法制度や都市計画の現場調査・研究を通じて、多様な文化や価値観をもつ人たちや女性研究者との出会いにより視野が広がったと語る宮川先生。ご自身の経験から、学生時代に幅広い世代の人と交流して様々な価値観や可能性を見つけてほしいと理工系女子学生支援にも取り組まれています。若い世代の学生や女性研究者を見守る先生の優しいまなざしが印象的です。
奈良県出身の私は、子どもの頃から奈良公園や古都ならではの街並が好きでした。寺院や公園が敷地で区切られておらず、自然の雄大さと歴史ある建築物が融合した風景に魅了されたのだと思います。一方で、両親はホストファミリーとして外国人留学生を自宅に受け入れており、海外の学生と暮らす経験があったので英語にも興味がありました。
高校では英語で活動を行うESSのような部に入部したのですが、留学生や奈良を来訪されたお客様をもてなすティーパーティーの準備や実施のほか、英語で司会する機会も多かったです。1年間米国へ留学したのですが、歴史ある街並に興味があったので東海岸を選びました。留学先のホストファミリーに、ボストンやNYに連れて行ってもらった時、日本の歴史的な建築は木造に対して欧米はレンガや石造りで、同じ自然環境と人間なのに、なぜこんなに街並が違うのか本当に不思議で。そして、米国より歴史の長いヨーロッパで何百年も残り続ける石造りの建築物や街並はどのようにできたのかに興味が湧き、大学で学んでみたいと思うように。そして、都市計画が有名な英国のニューカッスル大学へ進学を決意しました。
ニューカッスル大学では英語での授業についていくのは大変でしたが、留学生へのケアが整っており、授業時間外に英語を学べるクラスへ参加して英語力をブラッシュアップしました。また、都市計画の研究者であり、恩師であるパッツィ・ヒーリー教授の方針で、先生も生徒もファーストネームで呼び合うフレンドリーな学科だったので、すぐに周りと馴染むことができました。私は学部生として初めての日本人だったこともあり、多くの先生方からよく声を掛けていただいたと思います。
また、都市計画の各分野の先生方がすごく楽しそうに研究されていることが印象的で、研究者という職業を初めて意識しました。著書や論文を多数執筆されているパッツィ・ヒーリー教授は、いつも笑顔で研究の話をされていましたし、他にも人間的に温かく、様々なタイプの先生方との出会いがありました。
アーバンデザインを専攻したのですが、授業がない時もニューカッスルやスコットランドなど、様々な街並の特徴を調査するのは楽しかったですね。卒論は「日本と英国の街並の比較」を研究したのですが、英国の都市計画は許可制度が厳しく、許可を得られないと建て替えができないため、街並が大きく変わらないことが日本とは大きく違うと実感。日本と英国の都市計画の違いに関する研究に熱中し、「私も研究者になりたい」と思うようになりました。
研究者を目指すため帰国後は奈良女子大学の大学院へ進学。当時の日本ではまだ法律が施行されていなかった「工場跡地などの低・未利用地の再生プロセス」をテーマに、日本での事例研究をするつもりでした。ですが、事例が少なかったため「あなたは英語が堪能だから、海外の事例を調べては」と中山徹教授にアドバイスをいただき、オランダ、ドイツ、米国、英国の法制度と事例研究を始めました。
現在はホームページで最新版の法制度をダウンロードできますが、当時は最新かどうかわからない状態のため、調査したい現場のある各国の市役所の方や環境研究所の方へ連絡をとり、現地に赴いて資料を集めるのですが、文化の違いを実感しました。特に英国は本題の前に日常会話で私自身のことを理解してもらって初めて資料を提供していただけます。また、各国での現地調査の際は担当者の方がだいたい1日案内してくださるのですが、ドイツでは私が滞在する1週間ずっと担当者のご家族も一緒にアテンドしていただいたことも。各国の多くの方のご理解とご協力を得ながら法制度や、工場・炭鉱・廃棄物処理場等の跡地再利用に対してどのような土壌汚染対策を講じ、再開発のプロセスを経たのかを研究することができました。
博士課程後期修了後、平安女学院大学に新設される生活環境学部 生活環境学科の公募に採用され、講師として着任。新設された学部の一期生は意欲にあふれていて、関西エリアの建築・都市計画の研究者が訪れる授業発表会の際に、積極的に学生も参加してくれました。私自身も講師として一緒に成長していけたのではと思います。
平安女学院大学では講演会やシンポジウムを多数開催していたので、運営を担当する機会も多かったです。海外の方を招いたシンポジウムでは、同じ都市計画の大先輩である室崎生子教授の後押しで通訳を任されたことも。室崎教授は造詣が深く、何気ない立ち話の数分で研究のヒントを見つけて「次の本が書ける」とおっしゃっていて、研究者として人と話すことの大切さや仕事の進め方を学びました。
充実した日々を送っていましたが和歌山大学での公募を知り、海や山が近くにある豊かな自然環境と都市もある和歌山県の街並を研究してみたいと応募し、着任しました。和歌山県でのフィールドワークでは地域の方がとても協力的で、学生が訪れると喜んでいただけることも多いです。
和歌山大学の髙砂正弘教授と九度山町教育委員会と「九度山町文化遺産を活かした地域活性化事業」の共同研究を行い、その集大成を2018年2月に文化庁へ提出。これから地域住民の方々や行政にアウトプットしていこうと思っています。一旦1つの研究テーマは終了しますが、現在手がけている研究や新たな研究テーマを探求し、今後日本でも将来的に起こりうる景観や土地利用の変化を予測し、低・未利用地における管理不足を未然に防止する提案を明らかにすることで、今後の土地利用計画やまちづくりに役立つ資料を提供していきたいと思っています。
和歌山大学システム工学部では「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」の取り組みのひとつとして、2018年10月に「先輩女子院生に聞く シス工女子と研究」というランチタイムセミナー&交流会を開催しました。
「機械電子制御」、「電子計測」、「応用物理学」、「環境デザイン」等の各メジャー(専門領域)で、研究科へ進学した女子大学院生から、それぞれの研究の楽しさやおもしろさについて直接聞くことができる機会を設けました。女子学生に限らず男子学生も参加し、和やかな雰囲気の中で研究や進路のことなどを聞いていたので、良い機会になったのではと思います。
グローバル化が進む時代に社会へ出て行く学生にとって、学生時代から多様性のある人と関わりをもち、様々な価値観があることを知っておけば、社会的に変化が起こっても戸惑わずにすむのではないでしょうか。一歩先を歩く先輩と話して、今後の人生に役立ててほしいと思います。
私が博士論文を書いている頃、「就職先はあるかどうかわからないよ」と言われていましたが、「就職先がなかったらまたニューカッスル大学で半年~1年くらい研究しよう」と思っていました。「この道しかない」と思い詰めると苦しくなってしまうので、様々な考え方や道を考えておくことはキャリア形成にとって大切なことだと思います。
また、女性や外国人など様々なタイプの研究者の方との出会いが私の研究者としての基礎を築いたと思います。研究に煮詰まった時は「あの先生ならどう進めるだろう」と考えることで糸口を見つけることも。大学運営や学会、研究会等で出会う多様な価値観をもつ研究者の方々との交流を通じて、新たなテーマのヒントに出会うこともあります。
若手の頃から女性研究者や外国人研究者と出会う機会があれば、積極的に参加してほしいです。私もどこか部分的にでも参考になれたらと思っています。