研究者として、
輝きたい
女性たちの為に。
ダイバーシティ研究環境実現
イニシアティブ(牽引型)
仕事と子育ての両立に取り組む上司や先輩の背中を見ながら、さまざまな住まいの研究に取り組まれてきた服部さん。ご自身も育児に奮闘したからこそ、赤ちゃんのいる家族や共働きファミリーの視点を活かした家づくりの研究を行なわれています。リーダーの立場としてメンバーの状況や気持ちも大切に、チームワークで「幸せ住まい」を追究し、パパ・ママが楽しく子育てしやすい住まいの開発を目指されています。
子どもの頃は住宅の間取りを見るのが好きで、家の絵もよく描いていました。小学生になると夏休みの自由研究で、自分で調べて整理する事が楽しかったですね。私は大阪出身なのですが、父の実家がある福岡を訪れた時、いとこと遊んでいて「○○したらあかん」と言うと伝わらないことがあり、大阪弁と標準語の違いなど方言について調べたこともありました。今思うとその頃から調べる事が好きだったのですが、高校に進学して文系か理系かを選択する際はなかなか決められなくて。どちらかというと文系だけど、理系も嫌いじゃないという状態だったので、受験の際に学部を幅広く選べる理系を選択。高校2年生の時に友だちと建築家の個展を見に行ったのですが「設計した建築が長い年月残るってすごい」と感じ、設計の仕事に興味をもち、大阪市立大学 生活科学部へ進学しました。
入学後の学科説明で、先生がおっしゃった「生活環境学は人の生活から環境を考える学問。暮らしに寄り添って考えていく」という言葉に感動。設計を目指していましたが、暮らしに寄り添った空間、建築の研究に興味が湧きました。ゼミでは中古住宅居住に関する研究を行なったのですが、大学院生の先輩と住宅土地統計調査や、不動産業者へのアンケート調査からデータを紐解き、中古住宅居住の実態を把握しました。当時は一戸建・長屋建の中古住宅に住む率は東日本に比べて西日本が高いこと等がわかりました。この研究が楽しくて、大学院へ進むことも考えましたが、就職後でも大学院で学ぶことはできると思い、積水ハウス株式会社に入社しました。
当社では技術職で入社すると、設計や現場監督になることが多かったので、私も住宅設計の仕事をするのだろうと思っていたのですが、研究職として配属されました。研究者としての第一歩は、認知症高齢者のグループホームの設計に必要な資料を作ること。上司や先輩と各地のグループホームへの訪問調査を行ないました。実際に見て、運営者さんのお話を伺うことで、まとめるべきポイントが見つかりました。
また、その時の上司が言っていた「研究は客観性が大切。一人の意見ではなく、何人もの人に聞くことで、客観性を持たせてソリューションを出していく」という言葉が心に残っています。例えば、私はペットを飼っていませんが、飼っていないからわかりませんではなく、知らないからこそわかる発見があるんだなと。生活を解明するために客観的に調査し、発見していくことが研究なのだと思いました。
その後は、建築研究所等との共同研究での、バルコニーの物干し竿の高さなど洗濯物を干すスペースのユニバーサルデザインを担当したり、内装システム、アクティブシニア、子育てファミリー、街づくりでのコミュニティ形成などの研究を行ないました。
企業の研究所では社内の開発や設計など各部署のほかにも、研究機関、大学の先生、他業種の企業など、いろいろな人と研究する機会があり、そのたびにさまざまなアイデアが得られ、知らなかった世界が広がりました。
入社5年目頃に結婚。夫が海外へ単身赴任した時期もありましたが、帰国後数年してから妊娠しました。出産時は夫が仕事でとても忙しい時期だったこともあり「子育てってこんなに大変なのか」と愕然としました。一方で、お風呂やキッチンの動線、収納、間取りなどを工夫することで、赤ちゃんの育児をしながらでも家事を効率よくこなせる住まいができるのでは?と考えるようになりました。
育休から復帰後、アクティブシニアの研究を担当したのですが、やはり赤ちゃんのいる家族の家づくりの研究がしたいと上司に相談したところ、ベビーとの暮らしについての研究を任せてもらえることに。そんな時、以前仕事を一緒にしていた方から「ベビーを研究されるなら」と育児用品メーカーのコンビ株式会社さんを紹介していただき、共同研究を行なうことになりました。
ただ、当初は時短勤務をしていたため、以前より研究時間がないことに悩みました。娘は復帰したときは10ヵ月だったのですが、保育園に預けてもすぐに病気になり、急な呼び出しが多く、携帯電話が鳴るのが怖かったですね。
研究時間を確保するために、これまでの仕事のスタイルを見直す必要がありました。数週間先までTo Doリストを作成し、余裕をもって計画的に作業を行ないました。それでも私が手一杯になっていたら、先輩が「大丈夫?手伝うよ」と声を掛けてくれたのでありがたかったですね。
それまで研究は担当者に責任があり、実験や調査、資料作りなど自分でいろんなことをやりたいと思っていたのですが、子どもを産んでからはチームで研究していることを意識して、できないと思ったら早めに相談して人に頼むことも大事だと思うようになりました。研究者としてのステージが変わった気がします。
現在、共働きファミリー向けの『トモイエ』に、掃除用具の収納や身支度スペースなどのアイデアを加えた新『トモイエ』の研究グループのリーダーも担当しているのですが、人に頼むことを意識するようになったおかげで、メンバーに仕事を分担しやすくなりました。子育て中の男性も女性もいて、仕事との両立を頑張ってくれているので、「大丈夫?無理してない?」と声かけしながら本人の状況を把握して仕事をお願いしています。話を聞くと自分でやりたいということもあるので、意思を確かめることを心がけています。
『ベビーOS』の共同研究では、コンビ株式会社のグループ会社が運営する保育園や当社の社員の赤ちゃんの観察調査を行い、ベビー期特有の思考や行動特性を把握し、安心安全に配慮した上で、ベビーが楽しめるデザインコードをまとめました。そして、2019年にこの研究でキッズデザイン賞審査委員長特別賞を受賞しました。今後はこのデータを活かしてこどもの生きる力を育むために、パパ・ママが楽しく子育てができる商品の開発を目指しています。これからも人が幸せに暮らしていける住まいを追究し、世の中に発信していきたいと思います。
当社ではさまざまなライフイベント中も能力を発揮できるよう、2017年より在宅勤務が制度化されました。週に1、2回在宅で業務を行うか、時短勤務して、帰宅後に時短分を補完するかを選べます。育休中も取得が可能です。
私は子どもが小学校に入学した年から週1、2回在宅勤務をしています。在宅勤務のメリットは通勤時間を仕事の時間にできること。普段は19時に帰宅していますが、在宅勤務の時は18時に仕事を終えて学童から帰ってくる子どもを迎えられるので、子どもとのコミュニケーションの時間が増えました。作業中も集中してできるので助かっています。小学校は懇談や家庭訪問などの学校行事が多いのですが、その時間は10分程度。そのために会社を半休するのは時間がもったいないので、在宅勤務にして懇談の時間のみ休みにすればその前後に仕事ができるので、時間に無駄がなく業務もはかどります。
子育てと仕事の両立に悩む女性研究者は増えていると思いますが、今は相談する相手も増えてきています。相談相手が一人だけだと、こうあるべきという一つの姿にとらわれてしまうこともあるので、さまざまな人に相談すると良いと思います。話すだけでスッキリすることもありますし、時には助けを求めることも大事です。
また、育児をしていると、時間の制約があるため、以前よりインプットの機会が減るので、若手のうちに調査で出張したり、セミナーなどで情報収集したり、興味のあることに取り組んでおいた方がいいと思います。それにいろんな所へ行くと新しい出会いや人脈につながり、そこから新しいテーマや共同研究につながります。
撮影場所:絹谷幸二 天空美術館(梅田スカイビル タワーウエスト27階)
積水ハウスが設立・運営する、3D映像体験や色彩豊かな絵画・立体作品が楽しめる最新型ミュージアム